どのような世界にも不正行為はつきものですが、株の世界ももちろん同様です。
それがインサイダー取引や相場操縦と呼ばれる行為で、これらに該当した場合は厳重な処罰を受けることになります。
この記事ではこれらについて初心者さんにもわかりやすく解説した上で、どのような行為が不正行為とみなされるのかを書きました。
実例を考えればわかりますが、株の不正行為はやろうとして行うものもあれば知らないうちに該当していたということもあるでしょう。
自分が厳重な処罰を受けるはめにならないよう、しっかりとどのようなものが不正行為にあたるのか知っておくべきです。
株のインサイダー取引と相場操縦
最初にインサイダー取引と相場操縦がどのような行為なのか簡単に解説しておきます。
インサイダー取引とは
まずインサイダー取引についてです。これは内部者取引とも呼ばれ、
- 上場会社または子会社の役員・職員・関係者が内部情報を漏らし、その情報をもとに行われた取引
- 内部情報の重要性はもちろん、株価に影響を与えるかどうかも重要
- 重要事実が公表される前に認知し、その事実によって売買
といった内容がポイントとなります。
例えば雑談の中で
- 取引先同士で内部情報を教え合う
- 知人にサービス公表日時を伝える
といったことは日常的にあるかと思いますが、それによって利益を得てはいけないわけですね。
教えてあげる側としても
- 良い付き合いをしていくためにも儲けさせてあげたい
- どうせ誰もわからないだろう
- 他人の口座だから自分は関係ないだろう
という気持ちがあるのでしょうが、これは個人投資家だけでなく機関投資家も同様に処罰の対象となるので立場に関わらず禁止されています。
インサイダー取引が問題となるのは売買の公平性に欠けるからで、不正行為によって利益を得ている一方で損失を被ったり会社の信憑性が損なわれるということを忘れてはいけませんね。
ちなみに上記の「重要事実」とは上場会社における
- 決定事実:株式・新株予約権の発行、自己株式取得、株式分割、合併や提携、新技術や新サービスに関わる事項など
- 発生事実:災害などによる損害、主要株主の移動、訴訟提起や判決、不渡り手形、債権者による債務免除など
- 決算情報:業績内容、業績予想や修正
- その他:上場会社の運営・業務・財産に関わる事実であって投資家の判断に著しく影響を及ぼすもの
- 子会社に関わる重要事実:子会社に関する上記の内容に合致するもの
などを指しています。
相場操縦とは
次に相場操縦についてです。これは
- 市場参加者にあたかも株価が上がるように見せかける
- 株価の動きを実際に変えてしまう
といった様々な行為を指し、こちらも人為的な要素によって公正な価格形成ではなくなるという観点から禁止されています。
ただし、インサイダー取引ではかなり具体的に内容が明記されているのに対して相場操縦はあまり具体的ではありません。
というのも市場の長い歴史においては様々な方法で相場操縦が行われてきた側面があるからでしょう。また、それらの行為が本当に不正行為と言えるのかどうかは大きく意見が分かれるところでもあるからです。
例えば昨今ではSNSや動画サービスによって株式投資の情報を得るという背景がありますが、利用者の間で賛否両論という印象が強いですよね。
類似したケースも多く、このアカウントはダメなのになぜこちらのアカウントは排除されないのかという声もあるわけです。
実際にその全てを排除しようと思っても難しく、結果的にはいたちごっことなってしまう懸念もあります。
相場操縦に関する具体的なケースは後述しますが、現代ならではの相場操縦行為に関してはモラルの問題もあるでしょう。
これらに該当した場合はどうなる?
インサイダー取引や相場操縦に認定された場合、それらは金融商品取引法違反となり刑事処罰や課徴金が科せられます。
例えば会社関係者によるインサイダー取引では
- 個人:5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金または両方
- 法人:5億円以下の罰金
が科せられるようです。
平成17年度から令和元年度までにおける課徴金勧告件数と金額推移は
このようになっていて、平成25年度に関しては4600億円を超えるほどの課徴金が科せられていたことは驚きですね。
株の不正行為を監視する証券取引等監視委員会(SESC)とは
ここまでインサイダー取引と相場操縦について述べ、それらの処罰についてもお伝えしました。
しかし、これらの不正行為を見つけているのは一体誰なのでしょうか。普通に考えれば警察かなと感じますが、実は金融取引に関する不正行為を監視している団体があります。
それが証券取引等監視委員会と呼ばれる金融庁管轄団体で、いわゆるSESCというものです。
SESCは
- 市場分析審査
- 証券検査
- 裁判所への申し立て
- 取引調査
- 海事検査
- 犯則調査
- 海外当局との連携
などを行っており、不正行為とみなした場合には課徴金を命じます。
ちなみにSESC以外にも日本取引所自主規制法人なるものがあり、こちらでも日々売買審査をして怪しいものはSESCに情報提供しているようです。
インサイダー取引や相場操縦の例
最後にインサイダー取引や相場操縦の例をいくつかご紹介しておきます。普通に売買をしていれば大丈夫かと思いますが、ご自身が該当しないように気をつけて下さい。
見せ玉による印象操作
相場操縦の代表例として有名なのは見せ玉という行為です。
例えば寄付き前の気配値で
- 他の買い板と比較して明らかに大きな買い注文を入れる
- その買い注文を徐々に増やし、時系列的に増えているように印象操作する
- 最終的に大量の買い注文を全てまたは一部キャンセルを行う
といったものですね。
あたかも当該銘柄に買い注文が殺到しているように印象操作できるので、仮に自分がその銘柄をすでに保有していた場合には株価上昇の恩恵を受けられる可能性があります。
このように約定させるつもりのない注文を大量に出すことは印象操作による相場操縦と見なされる可能性が高いので気をつけなければなりません。
仮装売買
印象操作による相場操縦はいくつか種類があって、「同一人物が売り手と買い手の両方を演じる」という仮装売買もそのひとつです。
先ほどの見せ玉は約定させない方法でしたが、仮装売買では同一人物が同じ価格で売りと買いの両方を行い約定させているのがポイントですね。
見せ玉と同様にあたかもその銘柄の売買がその価格で活発化したと印象操作できるので相場操縦となってしまいます。
ただし、優待権利取得など明確な目的で行われているクロス取引に関しては仮装売買とはなりません。
優待権利取得のためと言えるためには約定数も問題になるかと思うので注意しましょう。
馴合い売買
仮装売買は同一人物が行っていましたが、これを複数人で行っても同様の印象操作となるため相場操縦となってしまいます。
これを馴合い売買と呼び、例えば
- Aさんが100円で10万株買い注文する
- 同時にBさんが100円で10万株売り注文する
といった具合ですね。馴合い売買だとどのように判断されるのかはわかりませんが、特定の口座同士が何度もすりあわせたような売買を行っているというケースは判断されやすいかもしれません。
ちなみに昨今では通常の本則市場とPTSを組み合わせて仮装売買や馴合い売買をするケースも目立っているようです。
例えば本則市場では板状況が厚く約定出来なくても、板状況が薄いPTSを利用することで大幅上昇を作るという手口は相場操縦にあたります。
誤発注もあるかもしれませんが露骨な場合は禁止行為に認定されてしまいそうです。
終値関与
終値関与とは「特定銘柄の終値によって印象操作をすること」で、具体的には
- 大引け直前に現在値よりも高い価格で約定させる
- その価格を維持して大引け後の印象を操作する
という行為です。
大引け直前に売買するということは日常的にあることですが、それを同一銘柄かつ継続的に行ってしまうと疑いの対象となり得ます。
特に日々の出来高が数百株や数千株しかないような銘柄に対して毎日のように高く約定させていくという行為は注意が必要でしょう。
板が薄いので買いづらい気持ちも痛いほどわかりますが、大量に欲しい場合には
- 指値をする
- 引け成りで買う
といった工夫が必要なのでしょう。
株価固定
特定銘柄の株価を意図的に固定するという行為も実は相場操縦です。
実際の売買を行っていると
- ある価格まできた時に買い板と売り板の両方に大きな注文が置かれている
- 売りも買いも厚い注文で挟まれているためその価格帯から脱出できない
- 徐々に幅が狭まり、数ティック分しか動かない状況となる
といったことがあります。
多くの場合はどちらかにブレイクして株価が進んでいくかとは思いますが、大引けまで固定されるようなケースは相場操縦と認定されてもおかしくないでしょう。
風説の流布
株を直接的に売買しなくても相場操縦に認定されることがあります。
具体的には特定銘柄に対して
- 事実無根の悪材料または好材料を流す
- 根拠のない噂話を意図的に流す
- 上記以外でも株価に大きな影響を与える嘘言を行い印象操作する
といったことを指し、特にSNSや掲示板サイトで問題となっているのが現状です。
風説の流布は大きな資金を持っていなくても出来てしまうという点が最大のポイントで、現代において誰もが該当してしまう可能性がある相場操縦でしょう。
SNSでは企業の公式アカウントや大株主と簡単にやりとりができ、その一部始終を不特定多数の人間が見ることが可能です。
因縁をつけられることがないよう、くれぐれも発言には注意していきたいですよね。
昨今ではSNSや動画上での相場操縦が話題に?
前述のように現代の株式投資においてはSNSや動画サービスで情報収集するという側面があります。
その中には特定銘柄を取り上げて情報を伝えるといったケースがあり、これをどう考えるかというお話が持ち上がっているわけです。
個人的には「情報発信者が当該企業からお金をもらって情報を流す」という行為でなければ問題にならないと考えています。
また、株の売買は最終的に自分の意思で判断を下すわけですから、
- SNSや動画上の無料情報はあくまでエンタメ情報として扱う
- 実際に売買する際には自分自身で情報の信憑性を考える
- 納得できたものだけ売買を行う
という意識を持つべきでしょう。
まとめ
今回はインサイダー取引や相場操縦について述べました。これらは株の世界における不正行為としてSESCに取り締まられていて、その種類は様々です。
中には知らず知らず不正行為を行ってしまっていたということもあり得そうなので、しっかりとどのようなことが不正と認定される可能性があるのか知っておきたいところですね。
現代ではSNSや動画による情報も多いですが、必ず自分自身で考えて取捨選択をするようにしていきましょう。