日銀ETFの損益分岐点推移から感じる市場への影響とは

    

日銀ETFの損益分岐点をご存知ですか?

日銀は2010年12月から10年以上もETFを買い続けています。その結果、保有合計は40兆を超えるほど大きくなり「国内株式市場における最大の株主」という表現もされるようになりました。その一方で日銀の損益分岐点はどこなのかという話題も持ち上がり、これは国会の予算審議内などでも日銀総裁自らが言及するなど市場が関心を寄せるポイントにもなっているでしょう。

この記事では直近における日銀の損益分岐点推移をまとめ、そこからわかる市場への影響などについて述べました。あくまで一個人の見解ではありますが、日銀のETF買い付け実績と日経平均株価の推移を比較した際に感じたことです。

私自身、日銀の買い付けルールと照らし合わせたときに「おや?」と感じましたのでぜひ読んでみてください。

    

日銀の損益分岐点推移

まずざっくりと日銀がETFの買い付けルールとして述べた内容を復習しましょう。日銀はETFの買い付けに出動する条件として「TOPIXが前場でマイナス1%を超える下落をした場合」を掲げていました。しかし、これはシビアに守られるものではなく、

  1. マイナス1%未満の下げでも買う
  2. マイナス1%以上の下げでも買わない

ともはや合ってないようなルールになっています。噂の域を出ませんが、最近ではTOPIXが続落した場合も条件として入れられているのではないかという話もありましたね。いずれにせよ日銀は機械的にETFを買い付けているのではなく市場動向を見ながら機動的に動いているという解釈で良さそうです。

ではそんな日銀のETFの損益分岐点はいったいどのあたりの価格なのでしょうか。これも正直申し上げて

  1. 買い入れの対象となっているETFが多い
  2. 複数ETFという性質上、一概にこの価格と言いづらい

といった事情はあります。しかし、それでも日銀側が決算会見や予算審議などで「日経平均株価に換算した時のざっくりとした損益分岐点」を述べてくれていますので、今回はこの推移を追ってみたいと思います。

ということで日銀ETFを日経平均株価に換算した場合、損益分岐点の推移は以下の様に述べられていました。

  1. 2020年3月中旬:1万9500円
  2. 2020年7月下旬:2万円
  3. 2020年12月中旬:2万600円
  4. 2021年1月下旬:2万1000円

いかがでしょうか。この損益分岐点の推移を見て感じたことは「下がったら買い支えるというよりも買い上げているというのが正しい表現かもしれない」ということです。例えばこの時期はどうでしょうか。

日銀ETF買付実績と日経平均

上記は日経平均株価の推移と日銀のETF買い付け実績を比較したものです。赤枠時期では日経平均株価が底値から這い上がり続騰していますが、日銀はそれに合わせてETFの買い付けを積極的に行っていることがわかりますね。

時期的にコロナショック後の安値を割り込まないか意識される時期ですし、市場としてもなんとか中期線で耐えてトレンド転換を図りたいタイミングです。ここで日銀が機動的に動いているのは市場がリバウンドするための補助を意識している気がしてなりません。

これらの買い付け実績を見た限りでは、前述のような買い付けルール通りではなく日本の株式市場をつり上げるように実績が積み上げられているのかなと感じました。

また、短期間で損益分岐点がどんどんせり上がっていることからかなり能動的かつ攻めの姿勢で買いを続けているという印象もあります。やはり日銀のETF買い付けは日経平均株価のブースト効果として影響しているのではないでしょうか。

日銀としては買い上げているという表現は疑問らしい

ただ、日銀の黒田総裁は2020年11月の参議院予算委員会で

  1. ETFを通じて間接的に保有しているのは東証全体の株価総額から考えると6%程度ではないか
  2. 直接的に株価を引き上げる、下落を防ぐということは狙っていないしそういった効果もないだろう

と述べています。

つまり日銀のETF買いは私を含めて皆が考えるような効果は期待できないということです。個人的にはそれなら何の意味があってこの政策をやっているのかと疑問に思ってしまいますが・・・やはり日本の株式市場が安定化を図るための補助なのでしょうか。

いずれにせよコロナショック以降の日経平均株価やその他諸々の指数を見ていると明らかに大きな買いが入っていますし、構図としては海外勢の買いを日銀が補助することで安定的な上昇ができたということにしておきます。

日銀ETFの副作用

ところで、日銀の損益分岐点が広く知れ渡ることにはデメリットもあると思います。それは「日経平均株価が日銀ETFの損益分岐点を割り込んだ際に市場センチメントに悪影響を及ぼす」ということです。

例えばコロナショックの底打ちである3月は日経平均株価が19500円を割り込みましたが、その際に「日銀の損益分岐点を割り込んだ」という情報も大きく拡散されました。しかし実際には日経平均株価がそこから大きなリバウンドを見せたのでこのニュースで売ってしまった人は悔しい思いをしたでしょうね。

市場にわかりやすい説明をするために日経平均株価に換算した損益分岐点を述べたことで、少なからずそれを気にして売買を行うという方も出てくるはずです。損益分岐点がわかるという安心感の反面、これは指数急落場面ではデメリットになってしまうでしょう。

今後も市場が急落すれば損益分岐点に関する報道が増えそうですが、その際には日銀が・・・ではなく自分が売買している銘柄の状況で判断したいところです。

単純に、良い銘柄が割安になってくれればそれは買場なので反発を見込んで買うべき場面でしょう。個別業績になんの関係もない材料で売るのは良くないと思いますので、ぜひ自分自身の判断を信じたいですよね。

まとめ

今回は日銀ETFの損益分岐点推移から感じたことを述べました。買い付けルールとしてTOPIXの下落率が一般的に知られていますが、実績を見た限りではシビアに守っているわけではなさそうです。

むしろ日経平均株価が上昇する時期に日銀も買い付けを行っているケースがあり、このことから市場動向を見ながら安定化を行っているスタンスなのかもしれません。

また、損益分岐点が短期間でせり上がっていることから能動的に買い付けを行っていて、現状の東証全体の株価総額に対する6%という割合もじわじわと上がっていきそうですね。

一方、損益分岐点によって受ける副作用としては市場センチメントへの影響が考えやすく、急落場面では報道が増えるかもしれません。その際には日銀の損益分岐点に近いからではなく、ご自身の売買ルールや相場観に従って判断をしたいところでしょう。