株の世界には季節性アノマリーがあって、セルインメイとはその代表的なもののひとつです。ちなみに
- セル(sell):売る
- メイ(May):5月
なので「株は5月に売りなさい」という意味合いとして浸透しています。
個人投資家の中にはこのセルインメイを意識している方も多く、どちらかといえば信憑性が高いとされているアノマリーではないでしょうか。しかし、そう言われると逆に疑ってしまう・・・という考えが私にはありますので、この記事では
- 過去11年間の日経平均5月陰線率
- 過去11年間の日経平均1月始値から5月終値の騰落率
- 過去11年間の日経平均1月から5月来高値からの下落率
を調査してその傾向を考察してみました。一般に信憑性が高いとされているセルインメイは本当に従うべきものなのか考えていきましょう。
セルインメイとは
最初にセルインメイとはどのようなものなのかざっくりと紹介しておきます。そもそもこの「5月に売れ」という風潮は米国株からきたもので
- Sell in May, and go away. Don’t come back until St Leger day.(5月に売ってセントレジャーデイまで戻るな)
というのが全文になってます。ちなみにセントレジャーデイとは英国で行われる世界的に歴史が深い競馬レースのことです。
米国や国内株式市場ではこのセントレジャーデイが過ぎた10月頃から相場が強くなるアノマリーが浸透しているので、5月以降に備えて売ったあとは夏枯れを過ぎた強い時期に買い始めなさいということを教えてくれているわけですね。
5月に相場が弱くなる要因としては色々なものがささやかれていますが、
- ヘッジファンドの45日ルール:顧客に換金するための売り
- 年末の株高で信用買い残が増加:6ヵ月期限の直前に売りが出る
- 税金還付が終了することで5月以降は弱くなる
といったものを聞くことが多いです。個人的には年末高のつけとして5月前後に信用買い残処理が行われるという要因が最もしっくりくると考えていて、3か月や6ヵ月区切りの日柄調整としてもよく言われることですよね。
ただこのアノマリーは本当に正しいもので従うべきものなのでしょうか?そもそも米国株と日本株では事情も違うでしょうし、長い目で考えれば米国株だけ上がって日本株は下がるという局面もたくさんありました。そのため本当に信じて良いか直近の日経平均株価を検証してみないことにはわかりません。
セルインメイとは信頼に値するアノマリーか検証
というわけで今回は2010年から2020年における日経平均株価の月足を活用して5月に売る戦略は正しいのか調べていきます。まずは
- 過去11年の5月においてどれくらい陰線が発生していたのか
- 陰線の場合の平均下落率はどれくらいか
を調べましたので、早速その結果表をお見せしますね。
上記の表では過去11年における
- 陰線率と騰落率
- それぞれの4本値
- 特徴的なローソク足傾向
をまとめました。
最初に陰線率についてですが、過去11年においては54.54%の確率で陰線になる結果です。一応は過半数以上となっていますが、5月だからといって明確に陰線割合が高いというわけでもなさそうですね。
次に下落や上昇の勢いについて。これは
- 陰線の時の下落率
- 陽線の時の上昇率
を比較した場合に陰線の勢いが強い印象です。平均値としても下落率の方がわずかに大きいですし、大陰線や上ひげといった弱いローソク足になる確率も高い傾向にあります。まぁ表全体の印象としてはこれだけで明確に「5月は売り!」とは言えませんが、アノマリーの風味だけはしますね。
ちなみに上記表の中では陰線にならなかったりなってもわずかな下落率という年がありましたが、
- 2013年:アベノミクス
- 2017年:トランプ大統領誕生
- 2020年:コロナバブル
などの要因で強い傾向にありました。こういった「市場センチメントがすこぶる良い時期では5月に売られるアノマリーはあまり効果がない」という考えも大事でしょう。
私個人の苦い思い出としては2020年のコロナバブルにおいて「どうせ5月は弱い相場になるだろう」という考えを持ったせいで劇的な上昇劇に乗り遅れたというものがあります(思えばこれがきっかけでアノマリーって一体・・・となったような)。
株は5月までに売っておこうという意味合い
ところでセルインメイは「5月になったら売りなさい」という解釈以外にも「5月までの高値であらかじめ売っておきなさい」という意味合いもあります。
わかりやすく言えば前者は5月に売り始めますが、後者は5月にはすでに売り終わっているような違いです。ということで後者の意味合いについて考察するために次は日経平均株価の
- 過去11年間の1月始値から5月終値の騰落率
- 過去11年間の1月から5月来高値から安値の下落率
について調べました。これらを調べた結果として例えば
- 1月から5月にかけて下落する傾向にある
- 高値は1月や2月頃で4月や5月に安値がきやすい
といった特徴が見られれば5月までに売り抜ける戦略は有効だと考えられますね。では気になる結果を見てみましょう。
まず1月から5月にかけて下落する傾向にあるかという点ですが、これは表の左半分を見ればわかります。1月始値から5月終値までの騰落率を調べたところ過去11年の傾向としては比較的下落する傾向が強かったようです。
下落率としては平均6%ほどになるので、大発会から5月にかけて高値を探して利食いをする作戦は悪くないでしょう。一般的なものとしては「節分天井」というものがあって、2月に高値をつけて下げ始めるというものです。ただこれは本当かわからないアノマリーで、その理由は表の右側にあります。
表の右側では高値や安値がどの月にくることが多くて下落率はどのくらいになるのかを示しました。そのうちの「1~5月にかけての高値該当月がどこにくるのか」を見てみると決して2月は多くありません。傾向としては年始にくるか、そこでこなければ4月や5月につける印象です。回数としては1月高値が最も多かったので年始に勢いがついたらそこで売るのはアリかもしれませんね。
また、「1~5月にかけての安値該当月がどこにくるのか」を見てみると
- 高値月のあとに安値月パターン:7回
- 安値月のあとに高値月パターン:4回
と最高値をつけたあとに最安値が到来するケースが多く、傾向としては「最高値の1、2か月後に最安値がくる」という印象です。ちなみに高値月のあとに安値月の場合分けとしては
- 1月⇒2月:1回
- 1月⇒3月:2回
- 1月⇒4月:1回
- 2月⇒3月:1回
- 3月⇒5月:1回
- 4月⇒5月:1回
となりました。うーん・・・これを見ると5月売りは遅いように感じますね。
結局どうするべきなのか
ここまでのお話をまとめると2010年から2020年という過去11年の傾向としては
- 5月の陰線率は54.54%で、下落の勢いが若干強め
- 大発会から5月終値までを1つの期間と考えれば陰線になることは多い(平均下落率は6%)
- ただし大発会から5月までの最安値は3月前後の印象(最高値の1、2か月後くらい?)
- 5月にかけて売るのではなく3月や4月までには売り終わっているべき
といった感じでしょう。正直言って、5月はゴールデンウィークという長期休暇が意識されて売られることはありますが今回の検証では明確な売り時かはわかりませんでした。
それよりも有効そうに感じた戦略は
- メインシナリオ:年始に勢いがついたのであればそこである程度は売ってしまう
- サブシナリオ:もし3月まで相場が良いとしてもその1、2か月後に下がることを警戒する
というものでしたね。言うなれば「セルインジュン(1月に売れ)」や「セルインマーチ(3月までに売れ)」です。
長期投資の場合は5月までの相場をどうするべきか
ここまでのお話で今回の記事で伝えたいことはほぼ述べましたが、要は上記の検証結果をどう活用していくかですよね。短期売買をやっている人は3月くらいまでにさっさと売ってポジションを軽くしておけば良いだけですが、長期投資をしている人はそういうわけにもいきません。
ほぼ常にある程度の資金が市場に置かれている状況なので3月や5月に売れと言われても困ります。したがって戦略としては
- メンタルケアとして「この時期は資産状況が下に動きやすいものだ」と認識しておく
- 5月までの相場は我慢して夏前になったら物色する
といった感じになるでしょう。ただし8月にかけてはまた夏枯れ相場という弱い時期になるので1年の前半部分は割と我慢期間ではあるんですよね。相場が悪い時期は無理せずデイトレなどをメインに行い、相場反転の時期にしっかりキャッシュが残っているようにしたいですね。