株式投資家の中でひとつの憧れとなっているのが「億り人」です。
億り人とは資産1億円を達成した投資家のことで、1億円という大きな区切りを達成したことで一目置かれる存在になっているわけですね。
すでに株式投資を行っている方もそうでない方もわかるかと思いますが、確かに1億円というのはかなり高い目標なので普通は長い年月をかけなければならないでしょう。
また、長い年月をかけて時間を味方につけるという観点で1億円達成を考えた場合、イメージされるのは「得た利益を再投資し続ける」という複利効果です。
この記事では「株の複利運用で1億円は可能か」というテーマで個人的な見解を述べてみましたので、ひとつの考え方として読んでみて下さい。
株を複利運用で1億円は可能か
まず結論を述べると株の複利運用で1億円は可能だと思います。ただし、これは「理論的には」という言葉がつくことは否定できません。
一応、この理論を簡易的に示すと・・・
- 毎月15万円(年間180万円)を積立
- 配当利回り5%で運用
という条件で複利運用した場合、30年後には税引きで1億円達成となります。この表を見ると俄然やる気が湧いてきそうですが、まず考えたいのは「毎月15万円を30年間積み立てることは可能か」という問題があるでしょう。
例えば年収が500万円だと仮定した場合、手取りの年間収入は400万円ほどです。ここから年間180万円を抜くということは残り220万円から
- 住宅費
- 光熱費
- 通信費
- 食費
- 交通費
- 交際費
- 娯楽費
- 医療費
- 保険費
などあらゆるものを出さなければなりません。毎月の支出を15万~20万円とした場合には年間で180万~240万円がかかりますので、場合によっては赤字です。
また、支出を大幅に抑えても生活水準はかなり低くなることが予想されるので年収500万円の生活とはほど遠いはずです。
さらに言うと、結婚資金などリスク資産とは別に現金も貯めていきたいという場合にはかなり苦しい家計になりそうですね。
年収500万円は決して低いお給料ではないですが、簡易的にイメージしただけでも毎月15万という積立額が高いハードルだとわかります。
ただし、これが共働き家庭となれば話は大きく変わってきますよね。
例えば奥さんが年収300万円(世帯年収は合計800万円)だとすれば、先ほどより手取りが約240万円増えるでしょう。
株の年間積立額である180万円をはるかに上回る金額をパートナーが稼いでくれるので、自分の手取り400万円で生活しつつ複利運用をすることができますね。
仮に運用開始時の年齢が30歳だとすれば定年と同時くらいに1億円の資産が出来上がる計算です。
個人ではなく世帯資産が1億円という状況ではありますが、夫婦2馬力で目指せば成功率も高まるでしょう。
常に株を買い続けることの難しさを考える
世帯年収800万円で簡易的に考えた場合、なんだかそれなりの確率で1億円が達成できそうに思えてきました。
しかし、やってみるとわかりますが株の怖さはこういった数字だけのシミュレーションではわかりません。
例えばこちらをご覧下さい。
2020年3月は新型コロナウイルスによって世界経済が混乱に陥り、アメリカ市場も日本市場も大暴落しました。
あっという間に直近で購入した持ち株の価格が半分になるなど大きく資産が変動したので、私自身もあらためて株に恐怖を覚えたというのが正直な感想です。
そのため普段は暴落買いをしている私もビビって株を買えず、自分の弱さを思い知らされました。
さて、先ほどの表では年間180万円を投入していかなければなりませんが、もしあなたならこういった暴落局面でも変わらず買うことができますか?
このコロナ暴落が運用開始から間もない時であれば運用額が半分になってもたかだか数十万の含み損かもしれません。
しかし、運用開始から10年も20年も経過していたら?
運用額が数千万円を超えていて、暴落によって運用額が何百万円・何千万円と目減りしたらどうでしょう?
ここは年収うんぬんではなくあなた自身のメンタルやリスク許容度などが大きく関係する所であり、継続できるか否かは胆力次第でしょうね。
日本の株式市場の歴史を振り返ると・・・
このようにITバブル崩壊後の2000~2003年や、2007~2009年のサブプライムローン問題からリーマンショック時代は散々な状況でした。
こういった株価が数年以上だだ下がり状況でも株を買い続ける。
買った株はどんどん値下がりする。でも買う。
株を買うのに使ったお金は使えない。それでも投入したお金がどんどん目減りしていく。
こういった状況はかなりメンタル的につらいので、耐えられそうかどうかは運用開始前にしっかりと考えなければなりません。
また、仮にどんな暴落でもどこで下げ止まるかはわかりませんので、株を買うにしても
- どのようなペースで買うのか
- どんな株を買うのか
などはセンスが問われます。
利回り5%を維持する難しさを考える
複利で1億円を目指すにあたっては株を買い続けることの難しさとは別に、利回り5%を維持する難しさもあります。
これは必ずしも年間5%ずつ増やさなければならないわけではなく「最終的に30で割ったときに平均利回りはいくらでしたか」という話ではあるものの、運用期間中はある程度購入する株の利回りを指標に買うわけです。
その時は利回り5%超えの株を良いタイミングで買えたと思っても、10年後には大きく業績が悪化していて利回りが数%しかなかったということもあり得るでしょう。
したがって、ただ利回り5%以上の株を買えば良いのではなく「業績や利回りが長年にわたって維持向上されそうな株」を買い続けなければなりませんよね。
セオリーとしてはその時の業績や財務状況を見て買うことになるのでしょうが、10年後や20年後にどのような業種が伸びているかは誰にもわからないという点が非常に難しいです。
例えば国内唯一のたばこ上場企業であるJTは、2015年頃だと食品株の中でも優良銘柄として捉えられていましたが・・・
5年後の今では業績悪化でこのような株価推移です。利回り自体は未だに高い状況ですが、これがどこまで維持されるのかはわかりません。
株はこういった面が難しいのですが、逆に言うと利回り5%どころか会社が成長して10%超えということもあり得るのでやはりセンスが問われますね。
10年すれば生活環境はガラリと変化する
複利で1億円を目指すにあたっての障害を述べてきましたが、個人的に最も大きなファクターだなと考えているのは「人間の生活は10年でガラリと変化する」という点ですね。
試しに自分の置かれている環境を10年前と比べてみて下さい。
- 結婚した
- 家を建てた
- 子供が生まれた
- 子供が塾や習い事を始めた
- 学費や仕送りが加わった
- 仕事が変わった
- 独立して新しい試みを始めた
- 病気になった
- 親やパートナーの介護
など色々な要因が考えられると思います。
これらは冒頭で述べた年間積立額の維持という点はもちろん、あなたに与えられる時間にも影響するはずです。
例えば子供が小さいうちは自由な時間が限られますし、株以外のことで悩むことも増えますよね。
株が好きで好きで仕方がないという方であれば限られた時間で株の運用について考えるのはつらくないのでしょうが、趣味などを優先したいという方であればなかなかストレスです。
ただでさえストレスなのに大幅な含み損時期だったとすればなおさらつらいので、やはり生活環境の変化と運用面の兼ね合いは重要な要素でしょう。
共働きで複利1億円を目指すという場合は特に
- 住宅関連
- 子供の養育・教育関連
で大きく生活環境が変化するはずなので、それを視野に入れた運用を考えなければなりませんね。
複利でも1億円はかなりハードルが高い
株を活用して複利で1億円を目指すというのは理論的には可能ですが、数字以外の要素を考えるとかなりハードルが高そうです。
具体的には
- 年間運用額をかなり大きくしなければならない
- 暴落時のメンタル面
- 利回り維持のための銘柄選定力
- 生活環境の変化
など色々なファクターがあるので、これらを全てクリアしつつどんな時も株を継続的に買っていくということが求められます。
また、具体的な運用面としては
- どの株をどれくらいの比率で買うのか
- 優先して購入する株はどれか
- ポートフォリオ全体の比率調整(個別銘柄、セクター)
なども考えるので勉強や判断力は必須でしょう。
ちなみに個人的には利回りの複利運用のみで1億円を目指すより、ポートフォリオ内にある程度は成長株を含めていった方が良いと考えます。
複利運用は何があっても持ち続けなければなりませんが、成長株があることで
- 資産成長速度と購入資金の底上げ
- 有事における現金化
などの効果が期待できるのでキャピタルゲインを多少なり狙っていくことは悪くないですね。
1億円でなければダメなのか
ところで、そもそも目指すべき資産額は1億円でなければ本当にダメなのでしょうか?
確かにお金はいくらあっても困る物ではないですし、口座に1億円あると考えれば色々と安心です。
ただし、それを得るために他の大事なものを犠牲にすべきか疑問ではないですか?
例えば株が原因でお子さんとの時間を削ることになっても1億円を得られればそれで良いのかなと感じます。
株の運用がうまくいかなくて精神的に不安定になったり家庭内や職場での関わり方が変わっては周囲の人が迷惑ですし、何よりあなたの株が下がってしまいますよ。
また、子供が小さい時期というのは本当にわずかなもので、親も子もその時しか味わえない感覚があります。
その時期には適切な関わり方をしてあげ、お子さんが将来的に真っ当な人間になることの方が1億円よりもはるかに高い価値があるのでは?
そう考えると別に1億円ではなく5000万円や数千万円の資産をゆったりと目指すスタイルでも良いと私は感じてしまいます。
仮に5000万円を目指すのであれば半分の運用額で済むので、メンタル的にも継続面でもかなり余裕が生まれるはずですよね。
アベノミクスを例に考えても株の運用がうまくいくかはある程度の運要素もあるので、そう考えると無理してでも1億円をがっちり目指すのではなく「できる範囲でマイペースに運用していく」というスタイルも良いでしょう。
また、株ではなく子供の教育費にお金を回したことで高校や大学の費用が大幅に浮くというケースだって大いに考えられます。
仮に地元の国公立大学にストレートで合格して実家から通学できればそれだけで将来的に必要なお金が1000万円以上は浮くわけで、こういった面も数字だけではわからない資産の残し方かもしれません。
- 全てのお金を株につぎ込んだことでお金しか残らなかった
- マイペースに運用しつつ子供の教育費や習い事にもそれなりに費やした
のどちらが良いのかは考え方によりますが、子供が自力で生きていくのに困らないように育てられたという方が親冥利に尽きるでしょう。
ここでは子供を例に述べてしまいましたが、同じようなことは独身の方にも言えると思います。
お金も大切ですが、
- 今ある状況を幸せに生きる
- お金以外にも総合的な幸福度を得る
という点を考えつつ、必要な分の資産を作っていければ私はそれで良いです。
まとめ
今回は株の複利運用で1億円の資産を作ることは可能かというテーマでお話しました。
理論的には可能ですが、それを実現するためには色々なハードルがあります。
共働きで目指せば成功率は上がるのでしょうが、子供関係など懸念点も増えるでしょう。
運用面やメンタル面も数字ではわからない要素があり、それらは運用前にあらかじめイメージしておかなければなりません。
また、人間の生活環境は10年もすればガラリと変わるはずなので、どんな時でも継続できる程度の運用計画が好ましいでしょう。
個人的にはお金もそれ以外の幸せも大事にしたいので、1億円に必要以上にこだわらず色々なものを大事にしながらマイペースに運用していきたいですね。
ぜひ皆さんも自分にとって本当に大事なことは何か考えて株を楽しんでいただければと思います。