※ 2022年2月に花王の株価が下落しているのはなぜかも記事の途中で記載しています。
私たちが生活していく上で欠かせないのはトイレや生理用品などの日用消耗品ですよね。
株式市場の中にはこういった日用品を世に送り出している企業がたくさんありますが、その中でも特に優良企業として人気が高いのは花王です。実際に業績も事業内容も安定的かつディフェンシブで、なおかつ成長を続けている珍しいタイプの銘柄だと思います。
また、企業イメージもかなり良く消費者からも好かれ、価格推移も安定的なので地合いの影響で下げてもかなり底堅いイメージがある株ですね。そんな花王も過去には大きく株価が急落・暴落したことがありますので、この記事ではその理由や背景についてご紹介しました。
急落局面は買いと言える株ですので、
- どのような要因で下げるのか
- 買う時はどんなことを気にするのか
をしっかりと知っておきましょう。
花王ってどんな会社?
花王は1887年に創業されたトイレタリー企業で国内首位の立ち位置にいます。時価総額は2020年5月時点で4兆円を超え、化学セクターの中でもトップを争うほどの大企業です。
連結売上高は1.5兆円(2019年12月期実績)を超え、安定的な業績を背景とした積極的な株主還元策も人気の秘密でしょう。事業としては「原料から一貫生産した上で独自物流および販売網で売っていくシステム」を構築していて、海外に目を向けると
- 海外売上高比率:37%
- 販売先:100以上の国と地域
で、特に紙おむつは中国人気を獲得しています。
また、昨今で話題のESG(環境・社会・企業統治)にも力を入れていくと表明していて、トイレタリー企業としての意識もかなり高いですね。そんな花王の経営理念は「花王ウェイ」と呼ばれるもので、
- 使命:豊かな生活文化の実現
- ビジョン:消費者・顧客を最もよく知る企業に
- 基本となる価値観:よきモノづくり、絶えざる革新、正義を歩む
- 行動原則:消費者起点、現場主義、個の尊重とチームワーク、グローバル視点
の4つで構成されているのが特徴です。この花王ウェイはトイレタリー用品以外にも色々な技術を生み出していて、例えば
- 低燃費タイヤを生み出す分散性向上剤
- 水中工事を進化させるコンクリート用増粘剤
- コピー機を省エネにする低温定着トナー
など私たちの知らないところで色々な技術を提供しています。
事業セグメント
花王の事業セグメントと売上高比率は
- 化粧品:20.1%
- スキンケア・ヘアケア:22.7%
- ヒューマンヘルスケア:17.0%
- ファブリック&ホームケア:23.9%
- ケミカル事業:16.3%
の5つで、それぞれがバランス良く売上高をたたき出しているのが特徴です。
具体的な商品ですが、まず化粧品事業ではスキンケア製品のエスト・ソフィーナiP・キュレルなどに加え、メイクアップ製品のSUQQU・KATEなどを手がけてお手頃価格からハイブランドまでラインナップしています。
2つ目のスキンケア・ヘアケア事業では洗顔剤のビオレ、シャンプーのメリット・エッセンシャル・リライズ・ジョンフリーダ。
3つ目のヒューマンヘルスケア事業では生理用品のロリエ、紙おむつのメリーズ、健康飲料のヘルシア、オーラルケアのピュオーラ、入浴剤のバブ、眼精疲労ケアのめぐりズムなど数々の人気商品をラインナップ。
4つ目のファブリック&ホームケア事業では衣料用洗剤のアタック、柔軟剤のフレアフレグランス、食器用洗剤のキュキュット、住宅用洗剤のマジックリンなどこれまた数々の人気商品をラインナップ。
5つ目のケミカル事業では油脂製品・界面活性剤・トナーなど豊富な商品を提供しています。ざっと挙げただけでもこれだけ有名な商品が花王から出ていて、しかも長年に渡ってお店に陳列されていることはすごいことですよね。
花王の強み
事業セグメントを見てもわかるように、花王の商品はそのほとんどが日用消耗品です。こういった商品は「買い換えスパンが短く需要が安定的」という点がメリットですが、逆に言えばいつでも他社に乗り換えられるということでもありますね。
しかし、花王はそういった業界の中でも安定的な売上高と成長率を維持しているので
- リピーター率が高い
- 企業・商品への信頼感がある
- 品質が良く消費者から好かれている
という点が事業そのものの強みに加えて備わっていることが強みだと感じます。その裏付けには
- 積極的な研究開発費:591億円(2019年12月期実績)
- 特許保有件数:16991件(2019年12月31日時点)
- ユニバーサルデザインへの改良件数:6574件
という実績があって、こういった施策が国内だけでなく海外でも売上高を生み出す結果につながっているのでしょう。
業績と各種指標
花王の直近業績は以下の通りです。
過去5年以上にわたって安定的な売上高と利益を計上し、なおかつ増益傾向となっています。
ちなみに、各国の販売実績は
このように日本とアジアが中心です。日本の売上高が突出しているのはファブリック&ホームケア事業ですが、ここはそれなりに市場を開拓している分野でしょう。
今後の売上高を伸ばすためには
- 中国などのアジアで市場拡大
- 米州・欧州でヒットする商品を開発
というのが理想ですね。業績への思惑も海外関連に集まりやすいので覚えておくと良いでしょう。キャッシュフロー推移も・・・
このように営業・財務・投資ともに健全ですね。
配当と株主優待
次に花王の配当および株主優待について見ていきます。まず花王の配当実績ですが・・・
花王は上場企業の中でもトップレベルの連続増配企業として知られ、なんと30年以上連続増配という記録を誇っているんです。
2013年期と比較すると2020年には倍以上にまで育っていることがおわかりでしょうか。配当性向は40%目標ですが、後述するように2022年現在は成長鈍化により60%以上に高まっています。
次に株主優待についてですが、花王は株主優待を実施していません。まぁ株主優待は業績成長を妨げるという意見もありますし、これだけしっかりと増配を続けていれば株主も文句ないように感じます。ちなみに2019年度には自社株578万株(500億円規模)を買付けていて、優待以外の株主還元策は盤石です。
花王の株価急落および暴落理由
では花王の株価が急落や暴落した時の理由について見ていきましょう。今回取り上げるのは
- 2015年8月頃
- 2018年10月頃
- 2021年2月
- 2022年2月
の急落および暴落場面です。
2015年8月のチャイナショックで暴落
ひとつ目は2015年8月の暴落ですが、この時期は日経平均株価も大変につらい時期でした。なぜなら後々にチャイナショックと呼ばれる世界同時株安が起きた時期だったからですね。
チャイナショックとは
- 中国経済の予想を上回る経済成長鈍化
- 上海総合指数の急落が止まらない
という状況を受けて世界経済にネガティブな思惑が走ったという歴史的な事件のこと。その下げスピードはブラックマンデーにも匹敵すると言われ、当時は大きな話題となりました。
中国市場は世界各国の企業が海外売上高を稼いでいるマーケットなので、ここが低迷してくるということは世界的な影響があると推測されたわけですね。例えば今まで中国市場で大きな成長率と売上高を稼いでいた米国のアップル社も当時の第3四半期決算で中国の影響を見せつけ、株価が大幅に急落しました。これによりiPhone関連銘柄にも影響が波及し、中国の景気後退思惑は広がっていったわけです。
当然ながら日本企業も影響を受けていて、中でも大きなネガティブイメージを負ったのは中国関連銘柄でした。花王は前述のように海外売上高の多くをアジア圏で稼いでいて、その本命は中国市場です。
仮に中国市場での売上高が激減すれば業績への影響は避けられないので、その前に売ってしまおうという流れになりました。このため2015年9月には直近高値6623円から4962円と25%以上の急落となり、結果的にはこれが良い押し目ともなっています。
というのも月足ベースではまだまだきれいな上昇トレンドを描いていたので、ここで拾った方も多かったはずです。実際にそこから高値に戻る流れになり株価は高値更新となりました。
2018年10月は市場コンセンサスに届かず急落
チャイナショックで下げた花王の株価はずいずいと戻し高値更新を続けていましたが、2018年10月に発表した第3四半期決算が市場コンセンサスに届かずに再び急落しました。
市場コンセンサスとは事前にアナリスト達が予想していた業績進捗のことで、一般に企業が出している予想値よりも重視される傾向にあります。成長を期待されている銘柄が市場コンセンサスに届かない場合は株価が大きく急落することも多く、花王の場合は発表翌日に500円を超える急落となりました。
また、そこから下げ基調は続き、最終的に高値9387円から安値7020円まで25%の下落率となっています。こちらの急落も最終的には高値に戻していますが、記事執筆時点の段階ではまだ最高値更新とはならず保ち合い状態のようです。おそらく今後も増益傾向が続きそうだと市場が感じ取った段階で突破していくのでしょう。
2021年2月も本決算が市場コンセンサスに届かず下落
花王の株価下落は2021年2月にも起きています。これはなぜかというと2020年12月期本決算の結果が市場コンセンサスに届かなかったためです。営業利益1755億円で前年比17.1%減少、純利益1280億円で前年比14.8%減少とそこそこ悪い数字ですね。2018年10月も同じような理由で下落していますが、今回は本決算という点が少し違います。
日足で株価下落部分を見てみるとこんな感じですが、地合いが良いということもありすぐに下落前の価格までリカバリーされていることがわかります。ここから考えるにやはり花王は落ちたら買われる銘柄で、下で待ち構えている投資家は多いということでしょう。また、650円ほどの下落ではありますが・・・
今回の下落後の株価水準を月足で見てみるとまだまだ上昇トレンドが完全に崩れたわけではありませんね。むしろ高値圏で形成されたボックスの下限に近いタイミングなので、ここら辺を目安に拾う方も多いと思います。ただし、ここを明確に抜けて6000円台に突入するようであれば市場としてもさらなる業績悪化を先見する状況。
2020年の業績悪化背景ですが、やはり新型コロナウィルスが関係しているようです。まず国内化粧品販売は普段からマスクをつける人が増えたせいで化粧品の需要が減少しました。これは化粧品業界全体に言われていることで、コロナ初期では口紅などの売れ行き低下が報道されていましたよね。
化粧品販売の時短なども直接売上高に影響していて、これはオフィス用品(主にトナー)の需要も低下しました。また、花王は以前から先行投資を積極的に行っていて、こういった点も利益圧迫につながっています。ちなみに化粧品業界ではオンライン販売に切り替える動きも出ていて、ここもコストを奪われる理由になったはずです。
一方、花王を支えている海外情勢ですが
- 中国ではベビー用紙おむつが不振
- 欧米ではヘアケア用品が不振
ということでした。ただし衛生用品はコロナ禍ということもあって好調な売れ行きだったようです。
2022年2月時点の株価暴落理由
花王の株価は2022年2月時点で高値から44%と暴落しています。
決算のたびに売られているという感じで、その都度で個人投資家に塩漬株が生まれているのだろうと推測できますよね。この理由は下落に伴って信用買い残が増えているからで、株価下落と信用買い残増加パターンはあまり需給が良くない流れです。
簡単に状況を表現するならば「割安感から逆張りする人も多いが下落の勢いが止まらず、含み損のまま捕まる人が増えている」という状況ではないでしょうか。
ではどうしてこんなに花王が売られているのか原因について述べていきましょう。
2022年の下落はこれに加えて2021年の業績も鈍化傾向が続いたためです。例えば原因のひとつに「原材料費の高騰に苦しんでいる」というものがあります。
原材料価格変動の影響がマイナス160億円とかなり強く出ていますし、販売費及び一般管理費や運送費・物流費のコストもマイナス30億円です。さらに構造改革費用でも71億円のマイナスが出ているという状況ですね。決算資料を読んでも原材料高の記載が多く、かなり苦しんだのだなという状況が分かりました。
2021年の売上高を減らした要因はまだまだあります。
まず洗剤分野の競合他社とかなり激しく戦ったということです。おそらく価格競争だと思いますが、決算資料にそういった記述がありました。加えて衛生用品の特需が落ちたということも書かれていましたし、中国の生活様式やニーズを素早くつかむために中国の現地生産を導入したことで45億円の減損が出ているということも書かれていました。
これで終わりかというとまだまだありまして、手洗い石鹸も特需が落ちたようですし日焼け止めも天候不順によって需要低下があったということです。
まだあります。新しいヘアケア商品を出して差別化を図ろうとしたがこれもあまりうまくいかなかったということですね。もちろん化粧品も未だ回復せず、ヒット商品はあったもののインバウンド消費が落ち込んだ影響は埋められなかった状況でした。まとめると
- 競合他社とも争った
- 特需も落ちた
- コロナはまだ蔓延していて主力商品の需要は回復していない
- 天候不順だった
- 資源価格や原材料費も高い
というように何重にもパンチを受けて売上高が落ちている状況みたいですね。
また、花王の株価をさらに苦しめている要素として「連続増配」があります。前述のような状況でEPSは落ちているのに増配は維持しているので配当性向が62.2%まで上がってしまいました。
本来であれば配当性向は40%が目標なのに
- 2019年:42.2%
- 2020年:53.4%
- 2021年:62.2%
とかなりせり上がっている状況です。
このまま配当性向が高まればいずれ一株益よりも一株配の方が高い状況になりかねず、要は稼いだお金よりも配当金が多い状況になってしまいます。
稼いだお金を片っ端から配ってしまっては企業も成長できず、最終的には
- 現金を取り崩す
- 減配する
しかなくなるでしょう。この状況は株価にとってかなりマイナスのためなるべく早く解消したいところです。
正直、花王の財務は悪くないのですぐに倒産危機になどならないと思いますが、思惑が株価につきまとっていることが問題だと思います。
こういった状況を受けまして花王が発表している今後の経営戦略を見ていきましょう。2022年度の経営方針としては例えばM&Aを加速させるという方針が述べられています。
K25という中期経営計画を達成するためのロードマップによりますと、2023年度から業績が立ち上がってくる予想がされています。このanother花王という部分は新しい事業で稼いでくる上乗せの部分で、ここが成長率を稼ぐ見立てです。
簡単に言ってしまうと2022年度までに種まきをして2025年に向けて開花させていく流れで、買い場目安としてはこういった徐々に花開いてくる時期かもしれません。
花王が現在狙っている事業はメディカル部門で、感染症や難治症から命を守るビジネスのようです。デジタルプラットフォームという文言も書かれていて、こういったものが新しい事業のキーワードではないでしょうか。
M&Aで本当に成長率が確保されるのかという話は投資家が気になる点ですが、実際に花王という企業は2006年にカネボウの買収で化粧品部門を作った実績があります。
化粧品部門は業績の柱のひとつになっていますので実績としては申し分ないでしょう。今回のメディカル部門もうまくいけば同じように成長率につながるとは思います。
その他の戦略として述べられているのは海外売上高比率を向上させていくという話です。花王の海外売上高比率は現状40%手前くらいで、これをより成長させていこうという話ですね。例えば前述のように米州や欧州は食い込みきれていない部分がありますので、ここが増えてくると面白いんじゃないかなと思います。
もうひとつ今後重要になってくる経営戦略として値上げがあるでしょう。最近のインフレによって色々な企業に値上げの話が出てきていますよね。
花王も洗剤など値上げする方針を発表していますが、これに対して反発して小売店が反発しています。例えばオーケーは売り場から花王を追放して対抗するなどと強気発言です。
個人的にはこういった反発はあれど値上げが進んでいくと考えていて、その理由は花王のブランド力。例えばマジックリンやキュッキュットなど看板商品を多く持つ点は花王の強みです。こういった商品にはファンが一定数いて、そういった人たちは値上げを飲み込むしかないですよね。
加えて2015年からの消費者購入単価を見ていくと、2015年を100とした場合に2020年には11ポイント上がっています。この流れを引き継いで2021年や2022年も単価を上げる可能性はあるという考えもあります。
ちなみに2021年に花王がどのようなヒット商品を出したのかという話ですが、例えば化粧品ブランドでおなじみのKATEからはリップモンスターという口紅が若者の間で大ヒットしました。
マスクにつきにくい口紅という商品で化粧品ブランドトップシェアを獲得したニュースも見ました。今回の化粧品部門は結果的にインバウンド消費減少であまり良い結果ではありませんでしたが、今後もこういったヒット商品の開発は非常に楽しみではあります。
個人的には男性用化粧品が流行っている話もちらほら聞きますので、こういった部分の開発もどうかなと感じました。
花王の買い時はいつか
最後にこの現状を考えて花王は買い場なのかという話をしますが、結論的には現状まだまだ様子見という判断が私の見解です。2022年2月現在の値動きを見た限りでは花王の株価はかなり弱く、短期であっても長期であってもまだまだ手が出せない状況に見えます。
決算の度に売られているようでは長く持てませんし、前述のように需給状況も良くありません。まず目指したいスタートラインとしては安値割れしない状況です。ここが最低限ほしいラインで、ボックス推移の中での決算反応を見たいところでもあります。
決算によって株価が上がる状況になれば良いのですが、そのために必要な要素は業績悪化の原因が後退すること。いつになるかわかりませんが原料高やコロナの思惑が後退するまでは慎重に判断しましょう。
これだけ株価が下がれば強さを明確に出してきてから乗っても乗り遅れたという状況ではないと思いますので、ぜひじっくりと監視してみてはいかがでしょうか。
まとめ
いかがでしたか?今回は花王の株価暴落・急落理由についてお話しました。企業として非常に信頼されているのは確かで、今後も安定的な事業と商品開発で業績を伸ばしていきそうな銘柄です。思惑が生じやすいのは中国関連の材料で、過去にはチャイナショックで急落していました。
また、大型成長株としての期待感からか市場コンセンサスに届かなかった場合の急落もありましたね。ただ、急落時に底堅さを見せやすい銘柄でもあるので大きな下げ局面は積極的に狙いたいところです。
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