2021年5月11日に日経平均株価が急落。これは米国株のちょっとした下落や新型コロナの感染拡大懸念、そしてオリンピックへの先行き不透明感などが重なって起きたと考えますが・・・そんなことより市場が気になっていることがあります。それはこの急落によって「日銀がテーパリング姿勢を見せている可能性が濃くなってきた」という事実です。
いつもであれば日銀が買い付けするタイミングなのに今回の急落ではそれが行われないから市場も焦っているわけですね。少し前の3月には「日銀買い付け条件に株価急落を加えられ、この影響で買い付け額が3分の1に減る」といった情報が出回り、4月には市中流通残高に比例した買い付け方針が発表されました。
こういった流れを受けての今回の静観だったので市場もかなり怖がっています。これはSNSで日銀のテーパリングに言及する声が多いことからも確かでしょう。そこでこの記事では
- テーパリングとは教科書的にどういったものか
- テーパリングが示す意味とはどんなものか
- 日銀が行っていたステルステーパリング
- 実は思った以上に指数に織り込めるのではないか
といった内容を述べてみました。あくまで過去の経緯から考えてみた内容ですが、何かの参考にしてください。
参考リンク:野村証券|テーパリング
テーパリングとは
では最初にテーパリングの教科書的な意味について見ていきましょう。テーパリングとは英語の「Tapering」のことで、直訳すると「先細り」という意味になります。金融テーパリングでは何が先細っていくのかというと、これは中央銀行が行う量的緩和策ですね。量的緩和とは
- 国債などを中央銀行が直接買い付けることで資金供給を行う
- それによって市場の安定化や景気の回復を促す
といった金融政策のこと。つまりテーパリングとはこういった量的緩和を徐々に減らして終わりに向かわせようという動きです。中央銀行がテーパリング姿勢を見せることでどういった影響が出るのかは後述しますが、日銀であればETFの買い付け額を徐々に減らしていきますよという意味合いになりますね。
ステルステーパリングとは
テーパリングとはどんなものかお伝えしましたが、実は日銀がこういった動きを見せるのは1年ほど前からのことです。日銀がETF買い付け強化を行い始めたのは新型コロナ流行の2020年3月からで、買い付け上限額を年間12兆円に拡大すると発表しました。その後は方針通り買い付け額を増額していて、
- 2020年3月:1兆5,484億円
- 2020年4月:1兆2,272億円
という驚異的なペースでETF買い付けを進めたわけです。この買い付けだけでコロナショックから回復したわけではありませんが、国内個人投資家や機関投資家も心理的に買い向かいやすくなったのは確かでしょう。ただ、それから徐々に買い付け額は予告なしに減少傾向になりました。これが前日のテーパリングにあたりますが、日銀の場合は予告なしですので「ステルステーパリング」と呼ばれる動きです。
上記は日銀が公表している買い付け額実績から作成した推移グラフですが、明らかな右肩下がりになっていることがわかります。ステルステーパリングとはこういった「量的緩和の減少を予告なしに行うこと」です。
テーパリングの二次的な意味
ではなぜ日銀はステルステーパリングで買い付け額を減らしたのでしょうか?真相は定かではありませんが、個人的には
- 量的緩和によって当初の目的がある程度達成されたという見立て
- 資金供給をしなくても良い段階に市場が到達しつつある(株価の安定上昇)
- 投資家は量的緩和による安心感を背景に買い向かっていた
- 心理変化による急落を避けるため秘密裏に出口戦略を行いたかった
といったことが関係していると考えています。先ほど日銀のステルステーパリングを買い付け推移で見ていただきましたが・・・
それとは対称的に日経平均株価が右肩上がりに推移しています。結果的にはバブル以来の高値に到達していて、こういった背景から「もうテーパリング段階に入りましたね」という判断に割と前々からなっていたのかなと。しかしそれが市場に大々的かつストレートにアナウンスされてしまうと巻き戻しになりかねないので、あえてステルステーパリングだったのかもしれません。
実際に2021年5月には日銀がテーパリング姿勢を顕著にしたことで個人投資家に不安が広がっています。思うにテーパリングが引き起こす二次的な意味は「市場の調整」ではないでしょうか。
金融市場はFRBのテーパリングを織り込んだ過去あり
そうなると次に考えたいのは「巻き戻り相場がくるのかどうか」ですが、ここを考えるには歴史に聞いてみるのが早いでしょう。実は金融市場にテーパリングの話題が降りかかったのは初めてのことではありません。過去には2013年5月に当時のFRB議長であるバーナンキ氏がネガティブサプライズとしてテーパリング実施を示唆しました。
その結果、米国株も日本株も図のように急落したわけですが・・・その後はすぐに持ち直して高値更新となっているのがわかります。
- テーパリング示唆からしばらくは上値が重い展開ではあった
- 日本と米国を比較するとやはり米国に軍配が上がる
ということは言えるものの、それでも週足レベルでしっかりと上昇トレンドを維持しているのは立派ですよね。
日銀ステルステーパリングも株価に織り込まれるのか
皆さんは2013年のバーナンキ・ショックを見てどう感じますか?私は「意外にテーパリングによって投資家達は狼狽売りをしないのだな」と感じました。確かに冒頭で述べたようにテーパリング観測が出回ると不安に駆られて一過性の売りが出てもおかしくないでしょう。それでも過去の経緯から考えると「思ったより早く落ち着きを取り戻して持ち直す」という見方が強いですね。したがって日銀のステルステーパリングが明らかになってきたここからの日経平均株価も、意外に早く織り込んでくるのではないかと考えています。
ちなみに2021年2月前後の米国金融市場ではバイデン大統領の追加経済対策で長期金利が上昇しましたが、株式市場はこの金利変動をも織り込んで高値更新。次はテーパリング議論が視野に入りますが、FRBの将来指針としては
- 雇用最大化や物価安定に顕著な進展があるまで量的緩和は続ける
- テーパリング議論は前もってアナウンスする
といった言及に留めているようです。これは過去のバーナンキ・ショックを意識しての発言だと思いますが、おそらく米国株も長期的な混乱はないでしょう。
個人的にはテーパリングによる暴落を恐れるより
- 本当に必要な長期ポジを選定する
- 不要なポジションは解消して、短期的な下落に向けてキャッシュを高める
- 同時に高めたキャッシュの流入先をリスト化しておく
- 短期的な市場心理に惑わされず優良銘柄の値動きだけ注視する
といったことが重要だと考えます。テーパリングに限らず暴落を恐れて狼狽売りをすることは簡単で誰もがやってしまうこと。そうではなく過去の経緯を考慮して自分がどうするべきか考えると健全な売買ができるのではないでしょうか。
まとめ
今回はテーパリングとはどんなものか、二次的な意味として考えられることを述べました。テーパリングとは中央銀行が行う量的緩和を徐々に減らし終わりに向かわせる出口戦略のことです。過去には米国株でバーナンキ・ショックと呼ばれるテーパリングきっかけの急落もありました。
しかし意外にも市場はすぐに株価に織り込み高値更新となっており、ここから考えるとテーパリングは単なる市場の調整と言えるかもしれません。そう考えると株価暴落を考えるよりは「不要なポジションを解消して一過性の急落に備えること」が好ましいでしょう。早い段階でキャッシュ比率を高めれば有望株を安く保有できるかもしれませんし、狼狽売りをしなくて済みます。日銀のステルステーパリングが浮き彫りになってきたこの状況で自分がどういったことを考えるべきか今一度考えたいですね。
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