権利落ち日から株価が上がるパターンがあるのをご存知でしょうか。株式投資には株主優待や配当という制度があって、これらをもらうには権利確定日に該当銘柄を保有している必要がありますよね。配当や優待だけが目的の場合だともらえる権利さえ獲得できればあとは株を保有する必要がありませんので、いわゆる権利落ち日には
- 配当や優待権利落ちの売りが一気に出る
- その売りによって地合いが一過性に悪くなる
といったことが多いわけです。一般的に言われるのはここまでのお話ですが・・・実際はこのひとつ先の流れというものがあります。
この記事では権利落ち日の具体的な解説に加え、当日の日経平均株価の推移をチャートでご紹介。さらにそこからわかる重要な真実とそれを売買に生かすための考え方を解説しました。ここまで知っておくと権利落ち日を境目に株式市場で何が起きているのか把握でき冷静な判断ができますので覚えておきましょう。
権利落ち日とは
まず配当や優待の権利落ち日について解説しておきます。冒頭で述べたように、株式の中には保有することで配当や優待がもらえるものがあります。一応、初心者さん向けに説明しておくと
- 配当金:企業が株主に利益の一部を現金で還元する仕組み
- 株主優待:企業が利益の一部を商品やサービスなど様々な形式で還元する仕組み
のことです。どちらも企業利益の一部から還元されているという点が共通していて、お金だろうとモノだろうと安定した利益を出している企業でなければこういった株主還元策は長期継続できません。したがって配当や優待を長年継続していて、なおかつ配当であれば増配(配当を増やす)、優待であれば拡充してくれる企業は
- 事業利益が安定している
- 株主還元策に力を入れている
といった優良企業の可能性が高いですね。ただし株主優待に関しては国内株式市場特有のシステムということもあり、利益を無駄に食いつぶしているという見方もあります。
とはいえ個人投資家としても一定数の割合が優待目的で投資をしている背景もあり・・・なかなか優待を市場全体で廃止するという流れにはなりづらいでしょう。だからこそ後述する権利落ち日には地合いの行く末を注視することとその後に起きる流れを知っておく必要があります。ではそんな権利落ち日とはどういったものなのか?
配当金や株主優待は該当銘柄を保有した人がみんなもらえるかというとそうではありません。保有タイミングはいつでも良いわけでなく、配当や優待をもらう権利が確定する月末の段階に持っている必要があります。この月末の営業日を「権利確定日」と呼びます。
権利確定日は圧倒的に3月と9月に集中しています(さらに言うと3月のほうが圧倒的に多いです)が、3月と9月の月末に注文すれば良いというわけでもありません。具体的には「その月の最終営業日の2営業日前に保有している必要がある」ということです。これは見た方が早いですね。例えば注文月の月末カレンダーが・・・
こんな感じであれば表のような日程になります。表の例では月末である31日金曜日が権利確定日となっていますが、実際にはその2営業日前である29日水曜日の大引けまでに持っていなければなりません。この最終営業日の2営業日前である29日を「権利付き最終日」と言います。この権利付き最終日の大引けまでに現物株を保有している人であれば配当金や株主優待をもらう対象になるので覚えておきましょう。
そして、この記事で扱う「権利落ち日」とはその月の権利付き最終日の翌営業日のことです。つまり、表の例であれば30日木曜日が権利落ち日というわけですね。ちなみに、もしも30・31日が土日だった場合は最終営業日が29日に前倒しされるのでその分だけ権利付き最終日や権利落ち日も27・28日に前倒しになります。
また、権利付き最終日が2営業日前と中途半端な位置になっているのは株式の受渡の関係でそうなっています。証券アプリでは保有した株がすぐさま保有株式一覧に出てくるので知らない方もいらっしゃるかもしれませんが、あなたの手元に実際に株式が受渡されるまでには2営業日かかっているんです。
権利確定日の決まりでは「実際の手続き上で自分の手元に配当や優待対象の銘柄が月末までに届いていなければいけませんよ」となっているので、前述のような「最終営業日の2営業日前」というややこしい基準で権利付き最終日が設定されているわけですね。色々と述べてきましたが、覚える内容は
- 最終営業日から2営業日前が権利付き最終日
- 権利落ち日は権利付き最終日の翌営業日
- 月末が権利確定日
これだけ覚えておけば十分でしょう。
権利落ち日の株価推移
ではここから少しずつ本題に入っていきます。前述のように配当や優待は権利付き日だけ保有していればもらうことが可能です。極端な話、権利付き最終日だけ保有して権利落ち日に売ってしまえばそれで良いわけですが・・・これは市場参加者の多くが考えていることでもあります。その証拠に配当や優待をもらう権利が確定する1か月前になると徐々に出来高や株価が上昇するといったケースは珍しいことではありません。
こういった背景から3月や9月の権利落ち日では毎年毎年ある現象が起きます。それが権利落ち日の地合い悪化ですね。簡単に言うと「配当や優待がもらえる権利は確定したからもうこの銘柄いらなーい!」という売りが殺到します。その処分売りで日経やらTOPIXといった株価指数が下落するというわけです。例えば2019年3月27日の権利落ち日を見てみましょう(ちなみに2019年では3営業日前が権利付き最終日という決まりでした)。
上記は2019年3月の権利落ち日における5分足ですが、朝一の寄り付きでは前日終値からギャップダウンしているのがわかりますよね。この寄り付きの下げこそが、配当や優待銘柄の処分売りなんです。多くの個人投資家は権利落ち日の朝一に成売(なりうり)といって「いくらでも良いから寄り付きの価格で売ります」という方式で即売却します。
そのため前日終値からひとつ空間を空けて寄り付くということが多く、上記では3連続陰線で売られた状況でしょう。値動きをもう少しわかりやすくするためにフェーズで区切ってみると・・・
こんな感じになります。チャートの流れとしては
- A期間:処分売り殺到部分
- B期間:売りが一巡して横ばいに
- C期間:売りを吸収して上昇転換
という感じです。このチャート最大のポイントはA期間・・・と言いたいところですが、個人的にはB期間だと考えます。すなわち「寄り付きから売りが出続けたことで一旦の出尽くしとなり横ばいに移行した」というタイミングです。B期間では売りが一巡したのを見計らって買いにくる投資家の動向が、ところどころ陽線となって表れていますね。
権利落ち日では株価が下がる流ればかりがフォーカスされますが、こういった売り一巡を狙って買われる展開の方が重要ではないでしょうか。当然ながらB期間では「大きく下げた後に横ばいを続けていく」という流れですから、そのうち下向きの中期線に当たります。B期間ではそういった「移動平均線とぶつかったところでどう値動きするのか?」を見ていいくと良いでしょう。具体的にどう観察するのかイメージが湧かない方のために例を挙げると、
- ぶつかっても構わず横ばいを続けるのか
- ぶつかったことで抵抗を受けて下落するのか
- 勢いよく上抜けて上昇が始まるのか
こんなようなことを意識します。今回の2019年3月の例では、
- ぶつかって下げたものの、朝一の安値を目安に反発
- そのまま中期線を上抜け
- 反転上昇の流れに移行
となりました。記事の題名に書いてある「権利落ち日に株価が上がるパターン」というのはこういった流れがひとつですね。
包括的な流れとしては「処分売りが一巡したら買われる流れがきてもおかしくはない」ということがあるということ。次にその流れの中で自分も買い向かっていて、なおかつその流れが続けば利益が出るというのがデイトレ目線の考え方となります。
ちなみにこれらの考え方は年に数回ほどある暴落日にも適用できますよね。暴落日では権利落ち日より売りがきつく、朝一の安値を割り込んで売りが連鎖することも多いです。しかし、基本的にはどこかしらのタイミングで「下げた後の横ばいを見ながら売りが一巡するかどうか」を見定めていくことになります。暴落理由にもよりますが、売り一巡後の買い向かいを意識するのは大事ですね。
権利落ち日から株価が上がるケース
では次にデイトレ目線などではなくもう少し広い視野で権利落ち日から株価が上がるケースを考えてみましょう。先ほどは権利落ち日当日の5分足チャートをお見せしながら
- 権利落ち日は株価が下がるだけではない
- 売り一巡で株価が上がる局面もある
といったことを述べたわけですが、この「売り一巡で株を買う」といった行動をしている人達はなぜこんなことをしているのだと思いますか?
個人的な結論としては「例え権利落ち日に株価が下がったとしても少し経てば本来の価値を目安に買われる展開が多いから」だと考えています。例えば該当する銘柄の属性としては
- 権利落ち日の雰囲気に引っ張られて株価が下がった銘柄
- 配当や優待以外にも好業績など株価が上がる要素を多く持った銘柄
- すぐに次の権利確定日が意識されやすい人気インカムゲイン銘柄
などがありますね。権利落ち日の下落というのは基本的に配当や優待の価値分が剥落しているのでほぼほぼ下落すると考えて間違いないです。しかし、その中には配当や優待の権利落ちといった一過性の値動きを無視して数日で値を戻すという銘柄もありますよね。そういった銘柄は
- 増益傾向が強い
- 事業モデルが唯一無二
- 企業としての立ち位置が盤石
といった感じで株式の価値そのものが高いので権利落ち日はむしろ買い場になり、権利落ち日からすぐ株価が上がるケースの代表的なものです。ちなみに権利落ち日にその他の環境要因が重なって
- 配当や優待の価値以上に株価が下がる
- 権利落ちの影響をかき消すほど株価が上がる
ということもありますね。特に株価が下がるパターンでは見かけ上として大きな下げに見えてしまうので売りが連鎖する可能性もあるでしょう。もし「これはさすがに下げすぎではないか」という有望銘柄があれば遠慮なく拾っておくと、権利落ち日からより大きな利益を生めるはずです。
また、株式市場には年に4回も株主優待を還元する企業があるのをご存知でしょうか。例えば・・・
この銘柄は3・6・9・12月に株主優待の権利確定日が設けられているラックランドという会社の日足チャートです。2020年には
- 権利確定日に向けて株価が上がる
- 権利落ち日で株価が下がる
- そこから1か月軟調
- また次の権利確定日に向けて株価が上がる
といった流れを繰り返していました。年に何度も株主優待を貰える銘柄はそれだけで人気が出る理由になりますが、株価推移を振り返るとそれを目当てに売買が繰り返されていることが感じ取れますね。こういったパターンも権利落ち日から株価が上がるもののひとつですので覚えておくと役立つはずです。
まとめ
今回は権利落ち日や当日の株価推移、権利落ち日から株価が上がるパターンについて述べました。権利落ち日は株価が上がるというイメージが持ちづらいですが、当日の流れには売り一巡を狙えるタイミングもあります。また、権利落ち日を過ぎれば株価を戻すことが多い銘柄というものが中にはあって、そういったケースでは配当や優待以外にも株価上昇要因を持っていることも多いです。
権利落ち日の影響が強いのは3月・9月になりますので、ぜひこの時期は意識を強めて銘柄をピックアップしておくと良いでしょう。その際には過去の傾向をチェックするだけでなく銘柄そのものの人気も考えたい所です!
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